食品ブランド育成術シリーズ 第三話:食品EC事業のロードマップを敷け
前回の記事では、一過性のブームには乗らず、時代の大きな波だけを見据えることの重要性についてお伝えしました。
今回お伝えするのは、食品EC市場という荒波の絶えない海を進むための「船の航路」、すなわち事業のロードマップについてです。
400社以上の相談から見えた「9割以上が当てはまる売れない理由」
食品ECの悩みで400社以上の相談に乗ってきた経験から、率直に申し上げます。
モールECではなく、自社ECサイトに限っていえば、売れない理由の圧倒的第1位は「来客数が足りていない」ことです。
たとえば、購入率2%・客単価5,000円のECサイトで年商1億円を目指す場合、以下の計算になります。
- 月間売上目標:1億円 ÷ 12ヶ月 = 約833万円
- 必要な購入件数:833万円 ÷ 5,000円 = 約1,667件
- 必要な月間セッション数:1,667件 ÷ 購入率2% = 約83,000セッション
つまり、年商1億円を達成するためには、月間約83,000セッションが必要です。
「年商1億円を目指したい」とおっしゃる方に、「SNSやブログを頑張って」「社員にいろいろやらせて」と努力面のアドバイスをし始める人がいます。そういう話を聞くとき、私はむしろ伸びしろを感じます。
広告費で露出を買えばいいだけです。
アクセス数が足りていないケースの9割以上は、必要な量の広告を打っていないか、過去に広告でトラウマを抱えてやめてしまっているかのどちらかです。
なぜ「ロードマップなし」で動き始めてしまうのか
やりきったうえで相談に来る方は、実は非常に稀です。
その根本的な原因は一言でいえば、「食品EC成功のロードマップをそもそも持っていない」からです。
私自身、ダイレクトレスポンスマーケティングで初月から月間300万円以上の営業利益(原価はほぼなし)を達成した経験があります。それは成功のロードマップを体感しながら学んだからでした。その後、新規事業を2つ立ち上げようとフィールドワーク調査を行いましたが、以下の2点が重なり、売上をほとんど上げることができませんでした。
- 成功のロードマップを持っていなかった(当時の応用力が足りていなかったとも言えます)
- 資金と力を投じる勇気がなかった
食品ECの参入障壁が高い理由
食品ECには、以下の構造的な理由から参入障壁の高さがあります。
- 自社EC:短期的な粗利に対して広告費が大きすぎるため、広告の良し悪しを正確に評価できない
- モールEC:売上は立てやすいが、長期的に取り組んでも限界利益を増やしにくい
- 構造上の問題:1年間で最大の収益化を目指すと「モールの拡大」が最適解に見えてしまう。しかしその後、利益が出ないことに気づいて疲弊し、撤退するケースが多い
また、食品業界では、事業計画を一緒に作成しながらコンサルティングを進めるスタイルは非常に稀です。
多くのコンサルティング会社は、クレームの種になりかねない「事業計画」を動機づけに使いません。その代わりに、便利なツールや「DX」という言葉の魅力、デザイン性のかっこよさ、ブランディング文言の刺さりを動機づけにするのが、業界の正攻法です。
事業計画を一緒につくることは特殊なスキルが必要です。また、ECやモールの支援では、成果報酬型のコンサルタントが非常に低い目標を設定するケースもあります。成果報酬型で利害が一致しているように見えても、会社全体の最適を考えないかぎり、経営者と本当の意味で分かり合うことはできません。
(補足:私がコンサルティングできる社数は10社ほどで、毎年のセミナーで十分な集客があります。また、ツールやサービスを紹介しても私への報酬は一切ないため、中立の立場を維持しています。)
事業計画を作る3ステップ
食品ECは、実店舗と比べると「固定費が少なく、変動費が高い」事業です。だからこそ、以下の3ステップで事業計画の骨格が決まります。
ステップ1:固定費を回収するために必要なリピート数を計算する
固定費には、社員1名分の運営人件費・サイト制作費・コンサルティングフィー・システム利用費などが含まれます。月60万円あれば十分な場合がほとんどです。
変動費(広告費を除く)には、原材料費・製品資材費・製造人件費・梱包資材費・発送人件費・決済手数料・倉庫費用などがあります。これらの合計が売上の70%、つまり粗利30%(理想は40%)残るとすると、月60万円の固定費を回収するには月200万円のリピート売上が必要です。客単価5,000円なら月間400件、そのためには8,000〜10,000名の会員が目標になります。
ステップ2:そのリピート数の20〜25倍の会員数を目標とする
ステップ1で算出したリピート件数をもとに、必要な会員数を逆算してください。
ステップ3:その会員数を集めるための手段・費用・期間を決める
この3ステップで事業計画の骨格はほぼ完成です。
なお、季節指数の調整は最終段階で行います。1年目はテストマーケティングとして実施し、その実績データを2年目以降の計画に反映させるのが現実的です。事業投資の総額は「新規集客フェーズのコスト+初期費用」の合算となり、実店舗1店舗の初期費用と似通った水準になることが多いです。
事業が軌道に乗った後の話
一度固定費の回収が完成すれば、あとはLTV(顧客生涯価値)を最大化しながら、広告費を柔軟に調整するだけです。
- 広告費比率15%で営業利益率10〜20%を目指す
- 他事業で利益が出て節税したいときは、広告費を多めに投じて会員に転換しておく
会員には「将来の収益を生む資産性」がありますが、広告費として計上した段階では帳簿に資産として載せる必要がありません。これは財務上の大きなメリットです。逆に、他事業で赤字の場合は利益額の最大化を優先させてください。
変動費の比率が高いビジネスは、急激な環境変化にも柔軟に対応できる企業体質になります。
事業計画策定時に見るポイント
インタビュー段階から、以下の点にアンテナを張りながら事業計画のたたき台を作っています。
- ECで通用し「時流適応」な商品企画の案を出す(セミナーで話せるような企画であればベスト)
- 商品企画案に対し、リピート率・客単価・新規集客時のターゲット規模・市場動向・競合売上(モール含む)を想定・確認する
インタビュー段階からの商品企画については、次回のテーマとします。
まとめ
- 自社ECで売れない最大の理由は「来客数不足」。解決策は広告費の適切な投資
- 食品ECには自社EC・モールECそれぞれの構造的な特徴があり、ロードマップなしでは判断を誤りやすい
- 事業計画は「固定費回収」を起点とした3ステップで骨格が決まる
次回予告:5分でできる To Do
<To Do> 自社が成功した背景をロードマップのように書き出してみてください。
食品ブランド育成術シリーズ 第四話:「圧倒的に売れる」商品をつくれ(近日公開)
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